#242 夜空の色
ひんやりとした風が吹いて、澄み切った夜空に大きな雲が流れていた。
昨晩のように、あれだけ空気が澄んでいれば、もっと沢山の星を見るころができるのだろう
けれど、星の明かりより、地上の灯りの方がきらびやかであろう、この東京では無理な話。
昨日の夜が満月だと知ったのは、仕事の帰り道に隅田川テラスを歩いている時だった。
隅田川を走る水上バスの引き波が、テラスまで押し寄せて、溢れた時に、今日は満月なんだ
という事を思い出した。
普段は、水上バスの引き波程度でテラスに川の水が溢れかえる事はないけれども、満月と
新月の前後には時折、こんな事が起きる。
5月も終わるというのに、冷たい風が吹いて、夜ともなれば気温が下がって、そのせいか、
昨晩の満月はいつもより、ひんやりと蒼白く輝いているようにも見えた。でも、決して冷たく
悲しげに光っているのではなく、妙に気持ちが澄み切るような、心が軽くなっていくような、
そんな不思議な夜だった。
上着を着て、靴下を履いて、ベランダに出て、キャンプ用の小さな折り畳みのイスに座り
ながら、満月が遠くに見えるビルの間に沈んで行くまで眺めた。
おかげ様で寝不足な1日だったけれども、何か清清しい1日でもあった。
それとずっと思っていた事を確かめることができた夜でもあった。
夜は黒ではなくて、濃紺だということ。
やはり地球は、青く美しく輝く星なんだという事を。