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#288 拒否

仕事が休みの日の朝、目が覚めて時計を見たら、7時だった。
まだ少し眠かったけれど、習慣とは妙なもので、いつもより1時間近く起きるのは遅かった
けれど、体が勝手にいつもと同じように動いていた。
部屋のカーテンを開けると、外の光が眩しくて、秋晴れの青空が空高く広がっていて、窓を
開けると、少々冷えた空気が部屋の中に入ってきて、呼吸をする度に体中を巡っていくのが
わかった。もっと、秋葉晴れの空に近づきたくて、カメラを持って屋上に上がる。
本当は立ち入り禁止の場所だけど、もう長い事住んでいるので、屋上に上がる鍵の番号を
知っていた。
秋晴れの青空に20mだけ近づいた。
ひんやりととした空気が肌に染みて、耳に空気が流れる音が聞こえる。
地上40mほどの高さから見た街は、東京タワーや東京スカイツリーから見る景色とは比べ
物にならないほど、視界が狭いけれど、箱庭を見ているようで、とてもかわいらしく見えた。
秋晴れの青空が広がる街に向かって、カメラを向けたけれど、写真を撮る事が出来なかった。
毎日見慣れている街の風景だけれども、なんか、写真というものにしてしまうのが、もったい
なくて、体と気持ちが写真を撮る事を拒否していた。レンズの付いた四角い箱の中に詰め込ん
でしまう事が出来なかった。


毎日、同じ時間に道を歩く人、走る車、1分の狂いもなく陸橋を渡る常磐線
毎日、同じ場所でカァカァと鳴くカラスの夫婦と公園でエサをもらうスズメとハトと。
いつも公園の滑り台の上で、日向ぼっこをしている猫が、公園のトイレの屋根にいて欠伸を
していた。お隣のご主人は、ゴミ出し係で、お向かいさんが子供と手をつないで保育園まで
お見送り。やがて街のノイズがいつものように動き始めて、街も目を覚ます。
これらすべてがあって、街の風景だとしたら、写真っていうものが、よくわからなくなった。


写真ってなんだろう?
そう思ったら、シャッターが押せなくなった。
言葉を添えなければ、わかってもらえない写真てどうなんだろう。
街はものすごい迫力で、何かを伝えようとしているのに、それを捕まえる事が、出来ないの
だから。
素人だから出来る訳ないんだけれど、そう思ったらシャッターが押せなくなった。