#402 一目惚れ

江戸時代、文化文政の頃に伊万里生まれる。(店主談)

口広で肉厚な、お猪口はちょっと珍しい。
内側に二匹の鯉の絵が描いてあって、お酒を注ぐと、
小さな池に二匹の鯉が泳いでいる様に見える。
この様な器に出会うと、日本人は本当に情緒を楽しむのが
好きなんだなと感じて、日本人に生まれて良かったと実感する。
正直に言って、骨董の事に詳しいわけではないし、焼き物の事に
詳しいわけでもない。

以前にも書いたけれど、ただなんとなく食事をするのは詰まら無いし、
空腹を満たすために食事をするのは好きじゃない。
例え一人での食事であったとしても、多くの事を考える事ができるし、
楽しむ事ができる。
それが二人であれば、食事と器を通して更に話が弾むだろうし、三人、
四人となれば更に更に楽しみは増すだろうと思う。

器には色や形、種類によって様々だけれども、必ずしも定義付けられた
方法で使う必要はなくて、使い手によって様々な顔を見せてくれるのを
見るのもまた楽しかったりする。
このお猪口でさえも、家でお酒を飲まない私にしてみれば、向付の様な
役割だったり、ちょっとだけお新香を乗せて見たり、梅干しを乗せて見たり、
立て掛けて部屋の飾りするのもいいし、使い方は様々だ。

初めてこのお猪口を見た時に一目惚れをした。
店主に話を聞いて更に好きになった。
約190年という時の流れと深さに、只々「ひゃ〜...」とため息をつくばかりだ。
この器がこれからどんな姿を見せてくれるかが、楽しみだ。

ただ、お酒を注いでもお猪口の鯉は、錦鯉にはならないだろうけど、
飲み手の方は、錦鯉になるかもしれないな。