記憶の抽き出し

記憶の抽き出しに、記憶をひとつ詰め込んで抽き出しを閉じたら、新しい空っぽの抽き出しが
開いた。そうやって今まで多くの抽き出しに記憶を詰め込んでは、記憶の抽き出しが開き、新
しい記憶を詰め込んできた。

詰め込まれて記憶のほとんどは、抽き出しの数が多すぎて、どの抽き出しに詰め込まれたのか
わからない。 ただ時折、詰め込まれて、奥深くに仕舞い込まれてしまった記憶もふとした瞬間
に、突然に抽き出しが開いて、思い出されることがある。 いつか見た風景、いつか嗅いだこと
がある街と雨の匂い、いつか肌に感じた空気と風、いつか触れたことがある肌の感触。 そうし
て、記憶の抽き出しが開け閉めされながら、私たちは生きているんだなと感じる。 私たちは、
その感覚なしでは生きられないのかもしれないと。

今際の際で、それまでの記憶が走馬灯のように巡ると言われるのは、きっと記憶のすべての
抽き出しが一斉に開いたからなんだろうな。 楽しかった事も、うれしかった事も、悲しかった
ことも、辛かった事も、今まで感じてきたすべての記憶の抽き出しが開くんだろう。

でも、その感覚があるから、生きることは楽しいんだ。 こうしている今も、記憶の抽き出しは、
開いたり、閉まったりしているんだ。


きっと...


Today's Tune
First Circle http://www.youtube.com/watch?v=laIsoG2BVpk

First Circle: Touchstones Series (Dig)

First Circle: Touchstones Series (Dig)